髪の毛の基礎知識
●髪は皮膚からの変化
解剖学的には、髪は皮膚の一部が変化したものです。頭皮の健康と髪の状態は表裏一体で
す。
皮膚は表面と真皮の二層構造からなります(図1)。その下に皮下脂肪があります。保護膜の
役割を果たしているのが、外側の表皮で、表皮の奥で細胞が分裂を繰り返し、最外層に角質
を形成しています。
内側の真皮の大部分は膠原繊維からなり、血管や神経が細かく張り巡らされ、細胞と膠原繊
維をつくりだし、表皮を支えています。髪の源となる細胞は、ここから派生します。
(図1)
●髪の主成分はケラチン
髪の皮膚に埋まっている部分を、毛包と呼びます。その中心に位置するのが、毛幹、いわゆる
毛と呼ばれるところです(図2)。
皮膚中の毛包の下3分の1の部分が毛球部ですが、そこで毛はつくられています。毛球はい
ってみれば植物の球根のようなところです。球は内部を見てみると、毛乳頭組織が芯にあり、
そこを毛母細胞が取り囲んでいます。毛母細胞はケラチンというタンパク質成分を内部に溜め
込んで分裂を繰り返し、次第に上に伸びてゆきます。これが毛幹です。健康な人で、1日平均
0.35ミリ、1ヶ月でだいたい1センチ伸びる計算です。毛の太さが毛乳頭の大きさに比例する
こともわかっています。
(図2)
●キューティクルと毛皮質を壊すもの
ここで一本の毛(毛幹)を輪切りにしてみます(図3)。細長い繊維状の細胞を、二重に樹木の
年輪のような形で束ねていることがわかります。中央から外側にかけてみていくと、まず中心に
毛髄、続いて毛皮質、最後に毛小皮(キューティクル)の順です。
毛皮質は細長く伸びた毛母細胞そのもので、毛の中心的な組織。つまり目に見える髪は、ケ
ラチンが詰まった繊維状の毛母細胞を外側のキューティクルが取り巻いている状態です。キュー
ティクルは1,000分の1ミリぐらいのごく薄い膜。1枚1枚が魚の鱗のように折り重なって強固な
膜となり、パーマ液やドライヤーの熱などの刺激から毛髄と毛皮質を保護しています。
ほかに、髪の毛の水分が過剰に蒸発してしまうのを防ぐ役目も持っています。シャンプーをきつ
くしすぎたり、ドライヤーをかけすぎて、このキューティクルをいためると、繊維がほつれ、枝毛現
象がおこってきます。髪の毛がパサついたり、脂で櫛が通りにくかったりしたら、キューティクルの
きれいな配列が破壊されていると思っていいでしょう。キューティクルの内側に存在する毛皮質
は、髪の毛の色を決定するメラニン色素を含んでいますが、ここが痛んだ場合も同様に切れ毛
現象が起こります。特に注意したいのは、タンパク質を溶かすパーマ液や、毛染め液です。ヘア
トニックや整髪剤のアルコールも、毛皮質中のケラチンを分解してしまうので、気をつけて使いま
しょう。
(図3)
●皮膚の外の毛は死んだ細胞
さて、もう少し詳細に髪の断片を観察しましょう。毛包部の細胞が、活発に細胞分裂を繰り返し
ているのが確認できます。これに対し、毛幹は活動の様子も細胞分裂も観察できません。
つまり、皮膚の外に出ている毛は、死んだ細胞の束でしかないのです。実は、毛の成長に関わ
る部位は、毛母細胞と毛乳頭細胞からなる皮膚中の毛球部だけなのです。当然、発毛や育毛
の治療は、この部分が備えている機能に働きかけてゆくことになります。ですから、髪のケアの
対象は、皮下の生きた髪と、目に見える死んだ髪の2つに分けて考える必要があります。
なお、日常当たり前のようにしているシャンプーにしても、髪にパーマをかけたり、髪の脱色や
染色をする場合でも、死んだ細胞を対象としていることになります。
●髪はこうして生まれる
ここで、最初に説明した皮膚の構造をもう一度、思い出してください。ある時期、表皮の真皮と
接する部分に、一定間隔に突起状の変化が現れます(図4)。その部分の細胞だけが増殖し、
真皮内に潜り込んでいきます。突起部を毛芽といいますが、毛芽からシグナルが出て、突起の先
端部に真皮の細胞が集められます。集まった細胞は真皮集塊と呼ばれます。やがて、真皮集槐
は毛乳頭細胞となり、それを包み込むように毛芽は広がり、毛母細胞へと変化してゆきます。ここ
に1つの毛球ができあがるわけです。人間では、胎生期の3ヶ月ごろにはこの現象が起きてい
ます。正確な測定は不可能ですが、このようにして全身では約500万本、頭だけでも約10万本
の毛が生まれでてくるのです。これは日本人も含め黒い髪を持つ人や栗毛の人の概算です。
参考までに、金髪の人々の場合はその10パーセント増し、赤い髪の人は逆に10パーセント減と
考えられています。
●髪の寿命
生まれた毛は、一生生えているわけではありません。たえず、新旧の入れ替わりが行われま
す。おおよそ成長期(2〜5年)、退行期(2〜3週間)、休止期(2〜3ヶ月)という三つのサイクル
を経て抜け落ちてゆきます(図5)。
いま自分自身の頭皮に生えている大多数の毛は、成長期であり伸び続けていると考えてくだ
さい。成長期の後、毛は退行期に入ります。毛乳頭細胞が自然に萎縮し、同時にそれを覆って
いた毛母細胞も分裂を止めてしまいます。その結果、毛乳頭だけが真皮中に取り残されて、毛母
、毛乳の両細胞が完全に活動を止める休止期に入ると、毛は抜けやすくなっています。正常な
サイクルで抜けた毛の根本は先が膨れた棍棒状です。だいたい、成長期の毛100本に対して、
移行期が1本、休止期が10本の割合だと思ってください。
髪を洗った後など、よく手に排水溝についた髪の毛をみて、髪が薄くなっているのではと不安
を感じたりすることがあるかと思います。しかし、いま説明したとおり、髪は常に新たに生え、そし
て抜けるという周期を繰り返していますから、それは自然なことです。健康な頭皮で休止期の髪
は約1万本。これが、2、3ヶ月のうちに抜け落ちるわけです。単純計算しただけでも毎日100本
ほどが抜けていても髪全体が薄くなることはないのです。
●毛乳頭と毛母の不思議な関係
皮膚中の毛包の上3分の1のあたりに皮脂腺が開いているのですが、休止期を経た痩せた毛
乳頭は、なぜか上昇をはじめ、そこまで引き寄せられていきます。すると、再び表皮に毛母細胞
が発生し、毛乳頭を包み込み新たな毛球ができあがるのです。毛球はもといた下方に戻ってゆ
き、そこでまた新たな毛を育んでゆくのです。毛のサイクルはこの繰り返しです。おもしろいこと
に休止期の毛乳頭は表皮と真皮の境目付近に上昇、つまり生誕地付近まで戻って毛母にすり
寄ることにより、見事に再生を遂げます。ちょうど発生のときに表皮と真皮の相互作用が働いた
ようにです。その生成の秘密を解明しようという試みが、全世界ですすめられています。いまの
ところ、毛乳頭細胞がどのように毛母細胞に刺激を与え続けているのはわかっていません。髪
の生成メカニズムは、まだ解明されていないことが多いのです。
出典:ヘアーメディカルブック by